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そして彼女は、『山村瑞穂』のカードで目を止めた。
乾いた喉が、ひりひりと痛む。
ごくりと唾を飲み込んでも、痛みは薄れるどころか、強まるばかりだ。
そっと扉に手をかけて、開く。
そこには特別な物が入っているわけもない。
入っているのは、艶のあるローファーだけだ。
それを確かめて、音を立てないように閉めかけた時。
背後から足音が聞こえて、真理子は何気ない様子でその場から離れると、自分の靴箱へ回って行った。
自分が何をしたいのか分からない。
しかし、どうしてかモヤモヤと黒いものが、体の中で渦を巻いている気がして仕方がなかった。
それを拭い去るように勢い良く扉を開けて、ローファーを取り出す。
そして手を離した瞬間、隣を柑橘系の匂いが駆け抜けていった。
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