3:悪夢をみせて

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「なんでもない」 小さく呟いて、彼の汗ばんだ背中に人差し指を滑らせる。 孝はクスクス笑いながら体をよじらせたが、携帯電話から顔を背けることはしなかった。 突然、彼の手の中で、携帯電話が震えた。 孝はすぐに振動を止めたけれど、その細かな震えは、真理子の指先にまで伝わった。 「あー、シャワー借りるな」 唐突に、カタコトの日本語が発せられた。 そして孝は携帯電話を持ったまま、ベッドを滑り降りる。 行き場をなくした真理子の人差し指が、空中にさ迷っていた。 それを唇にくわえて、ほんの少し舌で触れる。 塩辛い、生ぬるい味が、舌にベタリとはりついた。
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