3:悪夢をみせて

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真理子は、見えない糸で引っ張られてでもいるように、反動もつけずに起き上がった。 それから無造作に脱ぎ捨てられた服をかき集めて、手早く着替えを済ますと、家を飛び出した。 足は滑らかに動き、止まることなく動き続ける。 交差点に差し掛かり、歩行者用信号が赤なのを確認した時、ようやく足を止めたが、目は世話しなく左右に揺れ動いていた。 空車のタクシーに、二台のバイク。 重そうな音を立てながら、大きなトラックが真理子の前を通り過ぎていく。 あまりの速さに、思わず目を閉じる。 そして、ゆっくりと開いた時だった。 通りの反対側で明るい茶髪をなびかせて歩く孝の姿を、彼女の目が捉えた。
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