3:悪夢をみせて

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「……なにがあったの?」 開いた窓から生ぬるい風が吹き込んで、奈美の髪をさらさらと流していった。 形のいい小さな耳に、ピアスが光る。 その時、ふと真理子の鼻に何か懐かしいような香りが流れ込んできた。 これは何の香りだっただろうか。 思い出せない。 「一年生の女の子が、いなくなっちゃったんだって」 気持ちが悪くなるような風なのに、爽やかな香りが胸いっぱいに広がった。 「お姉さんと2人暮らしだったみたいなんだけど。 そのお姉さんが家に帰ってみたら、部屋が荒らされてて、それから連絡が取れないらしいよ。 で、今探してるところなんだって」 『何があったんだろうね』と奈美は悲しげに目を伏せたけれど、その目が楽しそうに輝いているのを真理子は見逃さなかった。 そして、気がついた。 それが、山村瑞穂の香りだということに。
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