2:夢という名の言い訳

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「そうだよね、そうに決まってるよね」 奈美が大げさに首を振ると、切ったばかりのショートヘアがぱらぱらと前に流れる。 それをぎこちない仕草で掻き揚げると、耳たぶにはめ込まれたピアスが覗いた。 「そうだと思ってたんだけど、一応ね」 言い訳を並べる奈美の言葉を聞きながら、鞄の中から鏡を取り出す。 お気に入りの正方形の鏡の向こうで、真理子は少し、微笑んだ。 5本もの口紅とグロスを塗って膨らませた唇が、てらてらと光る。 マスカラが瞼に付いているのを見つけてふき取ると、そこだけ赤く染まってしまった。 気にするようにもう一度指で押さえてから、真理子は尋ねた。 「何の話?」 奈美は待ってましたとばかりに、勢い良く椅子に座り込む。 さっきまでこちらに集中していたのが嘘のように、教室はいつも通り、それぞれ会話を楽しむ様子に変わっていた。
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