2:夢という名の言い訳

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「あのね」 机にひじを乗せて前のめりに顔を突き出すと、奈美は声を潜めた。 「奈々が死んだの」 うまく単語が聞き取れなかったのかと思った。 友達同士の間で、頻繁に交わされるような単語ではないのだから。 しかし、真理子の反応を窺うように顔を覗き込み、芝居がかった口調で先を続ける奈美の言葉は、確かに日常生活とはかけ離れた内容だった。 「しかもね、殺されたんだって」 生ぬるい唾液を飲み込むと、大げさなくらいに喉が鳴った。 真理子の瞳は、まばたきする事を忘れて大きく見開かれたままだった。 映っているのは奈美の姿。 しかし、真理子の瞳が脳に送った映像は、昨日まで変わらずにそこにいたはずの奈々の後姿だった。
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