2:夢という名の言い訳

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「今朝、奈々が部屋のベッドの上で死んでいるのを、奈々のお母さんが見つけたんだって」 真理子の瞳がまっすぐに奈美を見つめる。 興味を持たれる快感を隠そうともせず、彼女は右の口角を引っ張りあげると、手を胸の辺りに持ち上げた。 「胸にはね、包丁が刺さっていたんだって」 『これくらいの』と付け足して、突き出した人差し指でたどたどしく楕円を描く。 まるで直接見たかのような口ぶりだったが、ほとんど誰かのうけうりに違いない。 それに自分の妄想も織り交ぜて、壮大な殺人事件に仕立て上げているに決まっていた。 しかし真理子は、一つ頷いてみせただけで何も言わなかった。 いないはずの奈々の背中で、人工的なストレートの艶やかな黒髪がさらさらと流れるのを、見たような気がした。
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