1:プロローグ

2/12
前へ
/278ページ
次へ
少女が歩いていた。 暗闇に包まれた商店街を、足音を立てぬようにひっそりと進んでいく。 昼間は活気に溢れた通りなのだけれど、今はそんな面影は微塵も感じられない。 どの店も灰色がかったシャッターをおろし、恐ろしいまでの沈黙を守っている。 時折吹く風が、色あせたポスターをはためかせる。 笑顔で写っている女性タレントはところどころ破れ、両目には画びょうが突き立てられていた。 少女は長い前髪が目にかかるのを払いもせず、歩き続けた。 前髪の奥に覗く瞳が、点滅する蛍光灯の光を受けて微かに光った。 白々しい青白い光が、少女の茶色い髪を照らす。 手にしている包丁も、ここぞとばかりに銀色の光を放って存在を主張していた。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

578人が本棚に入れています
本棚に追加