2:夢という名の言い訳

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「犯人、誰なんだろうねえ」 どこかの探偵を思い出させるような顎を撫でる仕草をしながら、奈美が言う。 『可哀想だね』と言っているくせに、目は好奇心で光り輝いていた。 クラスメートが死ぬということは、初めてのことで、あまり実感がわかないのかもしれない。 ただ風邪かなにかで欠席しただけ。 姿が見えないだけで、どこかに存在している。 その思いが根底にしつこくはびこって離れないのも、仕方のないことかもしれなかった。 真理子は、鏡に視線を戻して血色の良すぎる色に染められた唇を、人差し指で押した。 離してみると、指の先に濃い赤がくっきりと残る。 血のような、毒々しい赤が、細かなラメを含んでギラギラと光った。 「私がやったんだと、思ったんでしょ」 口を開いた時に、歯に小さな赤が付いたのを、真理子は見逃さなかった。 そっと舌を這わせると、ほのかに鉄の味がした。
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