2:夢という名の言い訳

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「え、いや……」 明らかに奈美は戸惑いの表情を浮かべると、黒目がちな瞳を左右に揺らす。 それに気付いて、真理子はチラリと目をやると、音を立てて鏡を閉じた。 小気味よい軽やかな音が、2人の間を通り抜ける。 それからたっぷり3秒を数えてから、真理子は努めて明るい声を出した。 「なんちゃって。そう思われても仕方ないんだけどね。 正直、奈々のこと嫌いだったし。 でも、殺したりするはずないでしょ?そこまではさすがに、できないよ」 困ったような表情を浮かべて首を傾げて見せると、奈美は大きく息を吐き出した。 不安の色を浮かべていたはずの瞳は、早くも澄み渡っている。 真理子の微笑みに元気を得て、意気揚々と唇が動き出した。 「そうだよねえ。っていうか、真理子が奈々を恨むのは当然でしょ。 あんなことされたら、誰でも怒るって」 亡くなったばかりの人の話としては、礼儀にかなっているとは言いがたい笑い声を洩らしながら、間をおかずに言葉が流れ出てくる。 「殺されても、仕方ないんじゃないの」
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