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その時だった。
静かな室内に、突然乾いた電子音が響くと奈美が慌てたように声を上げたのである。
「あ、ごめん。電話だ」
「いいよ、そんなの出なくても」
「いや、でも。ちょっと、ごめんね」
孝は嫌そうな表情を隠しもせずに、奈美を見上げる。
しかし奈美は、そんな孝を押しのけるようにして携帯電話を握ると、鳴り続けるベルの音を振りまきながら小走りにベランダへと出て行ってしまった。
面白くなさそうに、それを見送る孝。
彼は、くしゃくしゃになった布団の上にゴロリと横になると、その透けるように明るい色の髪を散らした。
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