2:夢という名の言い訳

10/82
前へ
/278ページ
次へ
真理子は、奈美の言葉を否定も肯定もしなかった。 頷くこともせずに、爪をはじきながらそれを聞く。 「孝は奈々のこと聞いて、どう思ったんだろうね」 無遠慮に発された『孝』という言葉が、真理子の心の柔らかいところに突き刺さった。 指をそっと自分の髪に通せば、彼の柔らかいウェーブがかった髪の感触がはっきりと思い出せる。 けれども実際に指に触れたのは、ムースのせいで指通りの悪くなった水気のない髪だけだった。 髪をすくうと、それにこたえるように甘ったるい香りが鼻腔をくすぐる。 彼と同じ、シャンプーの香り。 「悲しいのかなあ。いや、そんなわけないよね。 これでまた、孝も真理子のところに返ってくるんじゃない?」 よどみなく流れる奈美の声は、ザラザラと耳に流れ込んできた。 その舌ったらずな話し方が、奈々に似ていて嫌いだった。 奈々が死んだ今は、いっそう耳障りに感じた。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

578人が本棚に入れています
本棚に追加