2:夢という名の言い訳

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『孝は私が好きなんだって』 そう奈々は言った。 整形を施したのではないかと疑わしくなるほど、きちんと同じ幅の二重瞼をゆっくりと閉じる度、濃いピンク色のアイラインが瞼を彩っているのが見える。 少しも滲むことなく引かれた鮮やかなピンク色を、真理子は忘れられなかった。 その色は奈々のお気に入りの色でもあり、また、その瞬間から真理子の大嫌いな色ともなった。 「孝のこと、今でも好きなの?」 皮がめくれた上から無理にグロスが塗りたくられた奈美の唇は、開くたびにねっとりと糸を引く。 糸は剥がれた皮に引っかかって、ぷつんと切れた。 「べつに」 嘘だった。 忘れられるはずなんてなかった。 二年も付き合ってきたのに、あんな別れ方をしておいてさっさと忘れられるほど、真理子は器用ではなかった。
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