2:夢という名の言い訳

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心のどこかでいつも孝を思い、目はどうやっても彼の姿を追っていた。 切れ長の瞳も、うすい唇も、微笑むように上がったままの口角も、目を閉じれば事細かに思い出せる。 自分の顔を自分で見るには、鏡を通さなければならない。 しかし、鏡が本当にそっくりそのままの自分を、ただ左右を入れ替えただけの姿で映しているなんて、保証できるだろうか。 真理子は、鏡に映った偽者の自分以上に、孝のそのままの姿を瞳に焼き付けていた。 何も通さない、クリアな彼の姿は、確かに本物で。 偽者の自分を見つめるよりも、よっぽど美しい行為のように思えた。 それでも、別れを告げられてからは人目を気にして隠れて見詰めるようにした。 彼を思う気持は少しも薄れていなかったけれど、それを人に悟られたら、未練たらしいとさげすまれるのは分かっていたから。
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