2:夢という名の言い訳

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真理子は、葬式に顔を出した。 どうしても奈々の顔を見ておきたいという気がしたのだ。 しかし、棺の中に横たわる少女は、奈々ではなかった。 家族にとっては、彼女は確かに奈々なのだろう。そしてまた、友達にとっても。 けれども、その少女は奈々であって、奈々ではなかったのである。 すくなくとも、真理子にとっては。 何も色をつけていない瞼は、どこか寒々しく閉じられ、血の気のない頬は、浮いたような薄いピンク色がお愛想程度にのせられている。 唇には、似合わない赤い紅が微かに引かれていた。 それは、期待していた奈々の姿ではなかった。 奈々が奈々であるためには、濃いピンクを纏わせる必要がある。そう思った。 憎い相手であるにも関わらず、ピンク色の何かを棺に入れてやりたいとさえ、思った。 もしかしたら、憎いがゆえ、だったかもしれない。 恨んだ相手だからこそ、最後まで恨みぬいてやりたい。 骨になっても、灰になっても、土と姿を変えたとしても。
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