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真理子は、こんな白い肌の、あどけない寝顔のまま棺に横たわる少女を恨んでいたわけではない。
どぎついほどのピンク色を、見せ付けるように体のあちこちに飾り立てて、孝を奪っていった女を恨んでいたのである。
おしろいを塗りたくられた白い少女の記憶をとどめぬよう、真理子は静かに瞼を閉じると、手を合わせた。
その上で見下ろしている奈々の遺影は、ピンクの服を着て得意げな微笑をこぼしているのだった。
帰りがけに孝の姿が目に入った。
いつもはだらりと緩められているネクタイをきつく締め上げて、どこか厳粛なムードを漂わせている。
背の高い彼は、誰よりも目立っていた。
急ぎ足で建物の中に入ると、20歳くらいの女性に手を掴まれて連れられていく。
真理子の記憶が正しければ、その女性は奈々の姉だ。
家族ぐるみの付き合いを、奈々と孝がしていたことが見て取れた。
それでも、真理子は見逃さなかった。
彼の薬指に付けられていたはずの、シルバーの指輪が外されていることに。
真理子は小さく口角を引き上げると、一人静かに出て行った。
そして、電灯のない薄暗い道の中に、姿を消したのだった。
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