2:夢という名の言い訳

24/82
前へ
/278ページ
次へ
開けたままの扉の向こうの明るい空間を眺めながら、今の声の持ち主を考える。 すると、思い付かぬうちに、カーテンを開く音と共に光が差し込んできたのが分かった。 そして、先ほどの声が自分の名を呼ぶが聞こえた。 その高く、どこかユーモラスな声には、確かに聞き覚えがあった。 聞き覚えという程度ではない。 高校に入学した時から、ほとんど毎日聞いてきた声。 「八木くん」 言いながら振り向くと、カーテンが開け放たれて多少は明るさを増した部屋の真ん中に、小柄な男子生徒が立っていた。 八木は長めの黒髪を何度も手で押さえながら、どこで買ってきたのか不思議になるほど古臭いメガネ越しに、小さな二重の目をこちらに向けている。 真理子とほとんど同じくらいの身長ではあるが、明らかに体重は彼の方が多いだろうと思わせる腹の肉。 脂ののった肌は、大抵の女子よりも確実に白い。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

578人が本棚に入れています
本棚に追加