2:夢という名の言い訳

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「あいつだって、読んでもいないでしょ。買っただけで」 真理子がぱらぱらとページをめくると、人の手が触れられたことのない、真新しい紙が姿を現した。 新しい本を開いたとき特有の、紙の匂いが鼻をつく。 時々ページが僅かにくっついているのが、その確かな証拠だった。 「ね?」 苦笑する真理子の顔を見て、八木は少し間を置いてから言った。 「あいつって……」 真理子の喉が、こくりと動いた。 その名前を聞きたいのか、聞きたくないのか自分でも分からないといった表情を浮かべて。 「清水孝くん?」 真理子が黙って頷くと、彼は『やっぱり』と言ってもう一つ、チョコレートを口に運んだ。
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