2:夢という名の言い訳

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当然のように、孝は真理子の家の方角に、足を進めていた。 付き合っていた時には、毎日2人で通った道を。 しばらく彼は、たわいもない話を続けては、一人で笑っていた。 真理子がほとんど相槌をうたないのも、気にしてなどいないようだ。 真理子はマンションの入り口にくると、足を止めた。 「じゃあ」 そう言って孝を見上げたが、彼は腕を離すどころか、より一層力を込めていった。 「なんだよ。少し、寄っていっても、いいだろ?」 しかし真理子は小さく首を振った。 『ダメだ』と、彼女の強張った黒い瞳が告げていた。
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