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とにかく、何を言われようとも答えない。
これこそが孝にへの最大の防御策だと、真理子には分かっていた。
そしてそれは、確かに有効であったのだ。
タイミング悪く邪魔者が入らず、時間さえあれば、の話であるが。
ここでちょうど、このマンションの住人が、2人の睨みあうエントランスに入ってきたのが、真理子にとっての不運だった。
さらに都合の悪いことには、入ってきた年配の女性は、真理子の隣の部屋の住民だったのである。
「あら、こんにちは」
真理子の祖母くらいの年齢に当たる女性は、ネギが飛び出したビニール袋をぶら下げて、いつも通りの笑顔で声をかけた。
それから、向かい合ったままの2人に気付くと、当惑したように、言った。
「どうかしたの?」
この一言に、先に答えたのは孝だった。
それも、とびきりの人懐っこい笑顔を浮かべて。
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