2:夢という名の言い訳

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「真理子だって、まだ俺のこと好きでいてくれてるんでしょ?」 孝が一人で笑うと、空っぽの部屋に、むなしく声が反響する。 甘い甘い声は、反響するたびに、嘘で固められた殻をはがされて、ただの自己満足の姿をさらしていた。 嘘の甘い言葉を口にすることで愛し合っていると思い込んで、思い込ませて、みだらな行為を正当化する。 いつもこの部屋で繰り返されてきた、孝の一人芝居。 真理子は、何も聞いていなかった。 ただ、瞼の裏にうつる奈々の姿は、いつもより薄れている気がした。 このままどんどん薄くなれば、いつか消えてしまうのだろう。そう思った。
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