2:夢という名の言い訳

54/82
前へ
/278ページ
次へ
「照れてんの? ま、何も言わなくても、この髪の香りをかげば分かることだけどね」 孝が唇を自分の唇で塞ぐ。 ブラウスの裾から、手を忍び込ませていく。 それからのことは、いつも通りだった。 そして、いつも通り終わって、彼が帰っていくと、真理子は一人この部屋に取り残されていた。 電気もつけないまま、すっかり暗闇に包まれた部屋の中で、彼女はのろのろとボタンを留めようとして、手を止めた。 それから、シャワーを浴びてから自分の部屋で服を着替える。 目を閉じても、奈々の姿は浮かばなかった。 ただ、彼女がいつも引いていたピンクのアイラインだけが、浮かんで見えた。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

578人が本棚に入れています
本棚に追加