2:夢という名の言い訳

81/82
前へ
/278ページ
次へ
真理子は、孝が角に姿を消す前に、さっさと背を向けて歩き出した。 ここは孝の家ではない。 思ったのはそれだけだった。 何も考えぬまま、家に着き、誰もいない部屋で夕食をとった。 静かな部屋に、聞こえるのはテレビの音ばかり。 風呂上りの髪をタオルで乾かしながら、テレビを見るとも無しに眺めていると、一人の女性が夫に浮気されたというエピソードを涙ながらに語り始めた。 「私、見てしまったんですよね。夫が知らないマンションから出てくるところを……」 ぼさぼさにかき回された髪の合間から、途切れ途切れに見える女性の顔は、悲しみのあまり歪んでいた。 すでに涙が頬を伝い、濃いメイクは黒い涙となって流れ落ちている。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

578人が本棚に入れています
本棚に追加