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最後にもう一度少女に目線を戻すと、少女は、勝正の方に首を向けていた。片目で勝正を確認すると、完全にこちらに向き直った。
そして少女の対面に立っていた明良は、少女が勝正の方に向いても、少女と対面したままだった。
上半身しかない状態で、少女に持ち上げられていたからだ。
少女は割れ物でも扱うかのように、そっと明良の上半身を固いコンクリートの地面に置くと、真っ直ぐと勝正を見た。
無表情の少女の顔には、血がベッタリと付着し、白いワンピースはもはや白だったとわからないほどに赤く染まっていた。
考えるまでもなく、いまこの惨状を作り出したのは、勝正の目線の先にいる少女だ。
しかし勝正は、この状況に理解と理性が追い付かず、それゆえにその場に立ち尽くすことしかできなかった。
本来、彼がすべき行動は一目散にその場から逃げだし、警察に連絡をするべきだった。
しかし彼が我に帰るまでには、致命的な時間をようした。
致命的。
勝正の命に至るまで時間がかかってしまったのだ。
いまだ少女に目を奪われたままの勝正は、我に帰る瞬間、悪魔の笑みを見た。
無表情だった少女の顔が、嬉しそうに歪む。笑ったわけではない。しかしそう見えるくらいに、無表情だった顔は形を変えた。
その瞬間に、勝正は我に帰り、そして、そこで彼の生涯に幕が降りた。
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