ホタルの里

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 姉はこんなにも元気そうに笑っているではないか。誰でもいいから、嘘だと言って欲しかった。夢なら今すぐに覚めて欲しかった。  途方もない悲しみに胸が締め付けられた。もはや涙は止まらない。頭ががんがんと痛む。  なにも、わからなくなりそうだった。 「そんな顔しないでよ」  姉の手が、そっと私の涙を拭った。私の頬に触れた、大好きな姉の手を、私は握った。病と闘い、やせ細った手だ。その手には、まだ確かな熱が存在する。その熱を頬でも感じる。  綺麗な瞳が、私を写していた。 「人にはね、神様に与えられた命があるのよ。私は精一杯生きたわ。父さんと母さんの子に生まれて、友達もたくさんできた。そして、こんなにも私を想ってくれる優しい妹がいてくれる」  私は姉の手を強く握る。とまらない涙が姉の手を濡らした。 「――私は幸せだったわ。これだけは、ちゃんと覚えてて」  ああ、姉とはこれでお別れなんだ。そういう思いが、この時初めて私のなかに落ちてきた。
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