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見慣れた天井が見える。
夢を見ていた。姉は笑っているのに、十五歳の私は泣いていた。
なんとも穏やかな気持ちだった。
「お母さん……」
涙ぐんだ娘が、しわの刻まれた私の手を握っている。息子が、唇を噛みしめながらこちらを見ている。泣いている孫たちが見える。一番下の孫は、状況が分からないように、泣きじゃくる兄弟たちを見上げていた。
ふいに笑みが込み上げた。
あのときの姉も、こんな気持ちだったのだろうか。だったらいいなと思った。ようやく、姉に追いつけた気がした。
「私は幸せだったわ。あなたたちも、幸せに生き抜きなさいね」
枯れた自分の声に、命の炎を感じた。
娘がこらえきれなくなったように、ついに泣いた。そんな娘の頭を優しく撫でてやる。
ほんとうに幸せだった。自分では気づかないほどに精一杯生きてきた。姉の残してくれた言葉が、今、私にも実感できる。
私は幸せだったと、大切な人たちに知っていて欲しかった。そして、その人たちにも、与えられた命を精一杯に生きて欲しかった。
ああ、こうして回っていくんだ。
ゆっくりと眠りに落ちるように意識が沈んでいく。
――お姉ちゃん……
最期の瞬間に浮かんだのはやはり、あのときの姉の笑顔だった。
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