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気が付くと暗闇の中を一人で歩いていた。
一人のはずなのに、そうではない気もした。私に寄り添うようにして、たくさんの温もりが感じられた。
ここはどこなのだろうか。見知らぬ場所なのに、不安はなかった。
足が止まることもない。止まろうという考えが浮かんでこない。
どれくらい歩いただろうか。ひとつの明かりが見えた。提灯の明かりのようだった。
「ようやく来たわね」
提灯の持ち主が言った。懐かしい声に、涙が込み上げた。
「お姉……ちゃん?」
忘れるはずのない姉の姿を認めたとき、一筋の涙が頬を伝った。泣いたのは、何十年ぶりだろうか。しかし恥じる気持ちは一切浮かばなかった。このときのために、涙を溜めてきたのだろうとすら思った。
「相変わらず泣き虫ねぇ」
姉が苦笑している。
「泣き虫じゃないよ。私、お姉ちゃんに負けないくらい、幸せになったんだから」
言葉遣いが、あの頃に戻っていた。
姉が目を細めて私を見た。
「そう。約束、守ってくれたのね。……そして、あんたはその姿で会いに来てくれたんだね」
感極まったように姉は言う。
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