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その日の放課後のことはよく覚えている。
二人きりで帰るのは初めてで、校門をくぐって、同級生に言う「サヨウナラ」という言葉でさえ初めて言ったみたいに思えた。
心が洗われた、というべきか。心に純情という薬みたいなものが塗られたみたいだった。
「牟田くんって誕生日いつ?」
途切れ途切れの言葉をぶつけ合いながら、家に向かう途中、ミアがそんなことを訊いてきた。
「誕生日?四月だけど」
「あっ。あたしも四月だよ。何日?」
「二十九日」
「じゃあ、あたしのほうが先輩だね。四日だから」
「そんなに変わんねーだろ?」
「変わるよー。ていうかさ四月生まれって損とか思わない?」
「損?」
「入学してすぐだから、友達にお祝いして貰えないでしょ?」
「ああ。俺あんまり意識したことねーからわかんねーや」
「男の子ってそんなもん?」
「祝い合うことなんかねーよ。あと、毎年祝日だし。親にしか祝って貰ったことないからかも」
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