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「くっ、ちっくしょう、なんでだ!なんでディストが使えねぇんだよ!」
メイスはもう回復している。
なのにディストも発動しなければ、身体強化すらできない。
ガチャガチャと腕を暴れさせても、ヴァイルの手首にはめられた黒い手錠はビクともしない。
「くそっ!くそっ!くそっ!……くそ……がぁ……」
メイスの使えない状態で脱出は不可能。
ヴァイルは力無く牢屋の壁にもたれかかり、ズルズルと腰を落とした。
同時に、意識を失う直前に見えた親友の辛そうに歪んだ顔が浮かび上がる。
『ヴァイルくん、ごめんね』
そう言って自分の意識を刈り取った彼の真意はなんだったのか。
大体の想像はつく。
ダスに脅されたのだろう。
と言うよりそれ以外有り得ない。
「ふざけんな……」
俯くヴァイルの目尻には微かに透明な雫が浮かぶ。
その小さな呟きには、いつもの力強さは欠片もなかった。
しかし、沈みかけた彼の意識を、一つの声が引き戻す。
「珍しいこともあったものだな。敵の城の地下牢で、敵の幹部と、お互い牢の中で初対面とは」
「っ――あんた……まさか……」
視線を持ち上げたその先には、自分と同じように手錠をかけられ、さらにそれを吊すようにして腕の自由も奪われた銀髪の男がいた。
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