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彼女がまず思い出したのは出撃前に全員から頭を乱暴になでられ、何度も「髪が乱れる」と笑って言ったことだった。
ただ、彼女の所属していた航空部隊『アーク中隊』の中ではでは、彼女は妹のように様々な意味でかわいがられていた存在だったため、多分無駄だとは思っていたが。
全員が一通りふざけ終わったとき、彼女は全員に終わったら故郷のレシピで作るクッキーを食べさせると言う約束だった。
何のことはない、ただの気まぐれの約束だった。
自分以外は武骨な男の部隊だったが、この部隊は甘いもの好きが多く、前に一度作ったときも好評だったため、全員が声をそろえて『次は一人一キロ分は作れよ?』と言って、笑ってコックピットへと向かっていった。
そこまで思い出して、彼女は墓の前で泣き崩れていることに初めて気が付いた。
なんてことはない約束のはずだったのに………その約束が守れなかったことが、彼女にとってはとても悲しい事になっていた。
*
「かわいい兵隊さん、終着駅ですよ?」
*
ハッ、と目を覚ました彼女は、目元の涙をすぐに拭ってから、起こしてくれた車掌に「ありがとうございます!」と言って荷物を持って列車を出た。
『帝国』の南の交通の要所、『タケダ』の街にある巨大な駅のホームは、交通の要所だけあって人がとても多く、特にグレートウォール行きの列車の来るホームは、自分とは違い陸軍の制服達によって事実状占拠されている状態だった。
そんな中、『比較的には』空いているこのホームを、それなりに重い鞄をよいしょ、と持ち上げて、誰かにぶつからないように人ごみをかき分けて彼女は歩いていく。
「あ!」
「きゃ!」
と、前にいた誰かとぶつかってしまい、彼女はおしりから転んでしまった。
「痛たたた…」
「あらあら、大丈夫~?」
と、そのぶつかった相手の、旅行者と思わしき老婦人にそう心配そうに声をかけられ、立ち上がり、服のホコリを払って彼女は答える。
「い、いえ! こちらこそ、前も見ずに…」
「あら、あなた軍人~? まぁまぁ、これはカワイイ兵隊さんだこと~」
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