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背中を預けていたソファの背もたれが、しわがれた声みたいな音をたてて軋んだ。
「私を、見るな」
うんざりした気分になって、薄暗い天井を見上げたままつぶやいてみる。誰にも聞こえてはないみたい
ここは私の所属する765プロの事務所。
の休憩所。
この休憩所には今のところ私という人間以外には誰もいない。
試しに振り返ってみる。
壁しか見えなかった。
休憩所は正方形の間取りで、丁度いい空間。
窓はひとつしかなくて周りはビルばかりだから少し薄暗い。
部屋の隅の方の暗闇に向かって、私はわざとらしく声をだした。
「私の名前は天海春香。17歳。765プロのアイドル…と言ってもあんまり有名じゃないんだけどね。えへへ」
「でも、今一生懸命売り込みしてるし、いつかトップアイドルになってみせる」
呼びかけたって、なにが起こるわけじゃない。誰かがぬっと姿を現すわけでもない。
暗闇は暗闇のままそこにあり続けているだけ。
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