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「佐月くん、お疲れさま。ほらそこ座って」
「……お疲れさまです」
赤ら顔の水沼は立ち上がって、そこそこと一番端のただ一つ空いてる席を指した。
そのまま手を上に伸ばし「生ひとつ」とよく通る、ボリュームの調整が出来てない声で店員に叫んだ。
座りにくい。
その席の前には受付嬢、高嶺の花、橋本がいた。ああ、殺意の篭った無数の視線は、このせいかと思う。
「よお、お疲れ」
「お、お疲れ」
ピリピリしてる見島の横にゆっくり座る。このテーブルに空席はここだけ。
「佐月さん、お仕事終わりました?」
「はあ、何とか」
「お疲れさまでした」
目前の花、橋本が気を使って話しかけてきた。
さすがは受付嬢、話しかける声は柔らかく、微笑みは美しい。
「いや、こいつ、ほんっと仕事遅いんですよ。トロいんで。なあ?」
「はあ、うん、あはは」
肩をポンと叩いた見島に苦笑を返した。俺を追い落とそうとギラついている見島の視線が恐ろしい。早く終わればいいのにと思う。
「お待たせしました、生です」
「ありがとう」
「い、いえぇ」
若い女性店員が赤い顔で去っていくと、橋本さんがふふっと口許に手を添えて笑った。
「さすが佐月さんですね」
「え? 何がですか?」
「今の方、佐月さんに見惚れてましたよ」
「そうでしたかね?」
「佐月さん、もてますものね」
「そんな事はないです」
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