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「おい、佐月、部長に挨拶行ったのか?」  背後から男にしては少し高い、声が聞こえた。なんだかいつもより、無感情な冷たい響きを感じさせる。橋本さんの声はこのガヤガヤとした喧騒の中にもしっかり耳に届いたのに、背後からの声は近いはずだけど小さく聞き取りにくいものだった。 「先輩」  振り向くとそこには予想通り、俺より頭ひとつ小さい先輩がいた。  先輩、……山科瑞希は今でこそ課が違うが俺が入社し研修を受けたあと指導係りを勤めてくれた人だ。  小さくて肩幅の狭い、スーツは特注なんじゃないかと思わせるほど華奢な体つきで、下を向くとサラっと流れる黒髪が、中高生を思わせる独特の清潔感がある。  顔は華奢な身体にちょうどバランスの良い小顔で、クリクリとした黒目がちの瞳とびっしりと生えた睫毛を眼鏡で隠している。顔の真ん中にちょんとついてる小さいけどつんと高めの鼻にぷりっと厚目の唇。  容姿だけみればとっても可愛いんだけど、当の本人はなんというか、男気溢れるタイプで、生真面目。仕事一筋で私生活までも仕事に切り取られてるような、仕事中毒者だ。  仕事に厳しいが、自分だけじゃなく、部下にも厳しい。
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