次元DROP

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「ああ、君はなんて美しいんだ。背景の桜よりも美麗だ」  僕の親友たるトウギが、ハチミツのように甘く納豆のように粘っこい、後味最悪の声で言った。 「……やめろ、トウギ。気持ち悪い」 「そんな事を言うなよツカサ。俺にはこれしか無いんだ。――さぁ、俺がお前を捕まようマイハニー。この胸に飛び込んでおいで」  トウギは僕の警告を無視して、求愛するフラメンコのように両腕を広げて抱擁をせがむ。  ――パソコンの画面に向かって。  ここは僕の部屋だ。居るのは正真正銘男2人のみで、甘いムードになんてなれるわけが無く、なったらなったで大問題になるわけで。  だから今のトウギの言葉が僕に向けられたもので無かった事には安心するが、それはそれ。これはこれだ。トウギは糸の切れた操り人間よろしく肩を落とし、 「ああ……ひどく虚しいぜ、ツカサ」  当たり前の事を言った。 「それを招いたのはお前だトウギ」  僕は当たり前に当たり前の事を返す。パソコンに向かって抱擁を求めて虚しくならなかったらお前は賢者か妖精さんになれるだろう。勿論、悪い意味で。  トウギは落とした肩を反らせ、天井を仰ぎ見て、悟りを拓いたかのような表情で言った。 「この世界は、ひどく無情だな。心がまるで、南極にて毛皮を剥ぎ取られたハリネズミのように寒く、孤独だ」  訂正。悟りを拓いた。  パソコンの画面にはちょっとアレ(18禁的な意味で)な少女のイラストが描かれていて、いわゆるエロゲーというやつに手を出しているわけだが。こんな煩悩丸出しで悟りって拓けるんだな。  こういのを僕らみたいな高校生男子は『賢者モード』と呼ぶ。テストには出ないけどファンタジーなんかじゃたまに出てくるよね。戦い疲れて命の尊さを知った主人公が『どうして、こんな場所まで来てしまったんだろう』と無心になる感じのアレだ。アレと同じだと思ってくれれば、概ね正解だろう。  どうでもいいけど、ハリネズミって毛皮あったの?
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