第一話 「苦悩」

6/12
前へ
/80ページ
次へ
「車内での暴力行為、または他の乗客への迷惑行為は、お止めくださいませ」 涼しい口調でそう言う車掌をおれは睨み付けた。お前のせいだって、と内心、呟く。 おれは、車掌を睨み付けながら、ゆっくり立ち上がり、座席に座ると、口を開いた。 「何なんだよ……アンタ」 「ただの車掌ですよ」 相変わらずの薄ら笑いを浮かべた車掌を見て、おれは問い詰めるのを止めた。時間の無駄と解釈したからだ。 心に何かあるとか言っていたのを思い出し、おれは現在、悩んでいるのを聞かせようと思い、口を開く。 「……おれは、このまま、どうしたらいいのか分からないんだよ。もう高三なのに、何をしたいのか分からないんだよ」 自分だけ、進路が決まらない、何がやりたいすら分からないのだ。なのに、周囲の大人は、おれを急かす。 〝早く決めなさい〟 〝先が決まってないの、お前だけだ〟 〝何で何も決めないんだ〟 それを言われたのを思い出し、おれは、膝の上に置いていた拳を握り締める。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加