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長く続く土間を歩き進めた先に、いくつか木戸で仕切られた個室があった。
個室にはそれぞれ札が掛けられており、「こちらです」と示された部屋の木札には『雪』とある。
中にいるのがあいつじゃなきゃ、どれだけいい雰囲気か……。
はあとため息を一つついて、戸を開けながら一声発する。
「……失礼します」
「よう、お疲れ」
声の主を面倒臭そうに見遣り――紘平はどきりとした。
雰囲気ががらりと違っていた。
白いTシャツに薄手のジャケット、そして淡色のジーンズという至ってシンプルな装いにも関わらず、服一枚でこうも親しげな印象になるのかと戸惑う。
「悪かったな、急で」
椅子から立ち上がって詫びる隼人に「いえ」と小さく応じるも。
目の前の上官から男の色気を感じて、紘平はふと落ち着かない自分自身に気がついた。
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