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二日前、ヘリ隊の斎藤が隼人の部屋から出て来た光景を思い出し――紘平ははっとした。
「……この件を報告したのが僕だって」
ずっと穏やかだった鳶色の目が、一瞬鋭い光を放って紘平を見据える。
「知ってなきゃ言わない」
それで呼び出されたのか。
事情を察した紘平の顔は強張っていた。
「僕は――その」
「仲間を想う君の正義感は評価に値する。だがなあ」
隼人は温野菜サラダをトングで皿に盛り付けながら、
「ゲイって評判の男の部屋から泣きながら男が出てきた、イコール性的暴行を受けたって判断は軽率だ。報告前に斎藤へ確認取れよなー」
至って呑気な口調が、返って紘平を戸惑わせる。
正確には、その気が失せただけなんだけどな。
その事実はそっと胸にしまっておくことにして、
「頼むぜ、杉サマ」
「……すみません」
とりあえずの詫びを入れるが、釈然としない。
斎藤の涙の理由を尋ねようとして口を開きかけ――止めた。
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