第一章 魔女と龍脈と邂逅と。

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 ――神居山へむやみに登った者は、神隠しに遭う。  昔から廻魔市にあるそんな言い伝え。龍が住んでいたとされ、霊験あらたかなはずのこの山は、いわば曰く付き。  人はそれを、呪われていると畏れ、危険だと忌避した。  ここで、一つのイデオロギーが誕生したわけだ。  “神居山には絶対に近づくな”  その確固たる思想統一の徹底ぶりといったら、幼少の頃から洗脳が始まるのだから脱帽ものだ。  例えば、親が子を叱る際に『悪い子は神居山に連れて行くよ!』などといったような脅し文句にまで採用される始末。  廻魔市で生まれ育った住人のなかに、母親からこの常套句を使われなかったやつなんて一人もいないんじゃないか? と言えるくらいだ。  そして、幼少の頃からたたき込まれたそれは深層心理に根深く刻まれ、果たしてマインドコントロールとなっていた。  つまりは、神居山に近づかないということは廻魔市では暗黙の了解、言わずもがなというヤツだ。  誰も近付かず、手入れをしない山がどうなるかなど、予想に容易い。  好き放題に伸びた木々が不気味な雰囲気を醸し出し、人気のない山にはいかにもナニカが居る――と、根も葉もない噂がたつのに時間はかからなかった。  こうして、神居山は孤独な山と化したのだった。
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