第一章 魔女と龍脈と邂逅と。

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         2/ 「――母さんもしつこいなぁ!」  さっきまで感傷に浸っていたオレはどこへやら。  数分おきに鳴っていた携帯の着信音が、ペダルを漕ぐ足を急かす。  今は颯爽と風をきりながら、わが家へ。  どんどんスピードが乗ってゆく自転車。景色はスライドショーのように目まぐるしく変化して、まるで世界を置いてきぼりにしたような感覚になる。  そして、トップスピードに達した瞬間、学生服のポケットの中で――“ソレ”は振動した。  同時に鳴り響いたのは、ベートーベン作交響曲第五、『運命』。  お馴染みの荘厳な音色がさらにオレを焦らせる。  電話帳のなかで、こんなものものしい着信音に設定しているのは、一人しかいなかった。  少しだけスピードをゆるめ、片手で素早くソレをとりだして開く。薄汚れたディスプレイには予想通りの人物名。  ――『母』  その一文字。たった一文字が背筋に悪寒を走らせた。  相も変わらず、先ほどから震えている携帯が、はやく出ろと訴える。  何を言われるのかなど、予想に容易い。  キレた母は、かなりやっかいなのだ。電話に出れば、やかましい小言が待っていることは間違いない。  となると、通話ボタンを押すのを躊躇ってしまう。  しかし、こうして迷っている間にも、液晶の先にいる人物はその怒りを増幅させていることだろう。  ならば、現状は悪くなってゆくばかり。  もう逃げ場は無かった。  ――ええいっ! なるようになってしまえ!  一際大きくなった蝉達の鳴き声を背に、思いっきり通話ボタンを――押した。
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