序章 世界と魔法と運命と。

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    セ カイ  ――“世界”を覆う空は、今日も雲一つない。  地平線の彼方まで続く青色のキャンバス。燦々と照りつける陽射しが、大地をどこまでも白光に染める。  景色の終着点では空と大地が曖昧に交わり、青とも白ともつかない色を放っていた。  終わりの見えない雄大な景色の中、その男女は居た。  辺りを木々で囲まれた小庭のような場所に、二人。他に人影はなく、あるのは小さな祠だけ。  だが、祠といっても、神はそこにはいない。石造りの祭壇には何かが奉られている様子もなく、そこから覗くのは空洞のみだった。        ――【世界と世界を繋ぐ場所(アクセスポイント)】  この場所は、そう呼ばれていた。  “魔法”のある世界。      と、  “魔法”のない世界。  魔法で創られ、魔法で隔てられた二つの世界を、唯一行き来することができる場所。  言うなれば、ここは二つの世界を繋げるトンネルのようなものだろう。  何も奉られてはいない祠は、ここがそういった場所であることを指し示す重要な目印であった。  だが、その外見はなんとも粗末。酷い有り様だ。  木造の外装には大小さまざまな傷があり、所々に苔まで生えている。  長い年月、この祠は手入れをされていない。  空洞の四隅にある支柱はすでに腐りかけており、この祠が崩壊する様を容易に想像させる。  ただ、これを造った者が余程の意匠を込めてこれを造ったということだけは、見てとれる。  寂れた外面には、隠れた神聖さがあった。それは、薄汚れた外見さえも、老いた聖人のように見せる。  そんな、時の流れに取り残されたような祠を見つめる男女。その内の片方、漆黒のローブで身を包んだ女のほうが口を開いた。 「これで、この世界ともおさらばか……。意外と呆気ないものなのね、夢が叶うっていうのも」   蒼玉(サファイア)のような碧眼が鋭く細められる。どこか皮肉めいた物言いが、視線の先へと投げかけられた。  そこには、もう片方が棒立ちしている姿があった。純白のローブを纏った男は、忌々しげに口元を歪めるだけで何を言うこともない。  固く閉ざされた口は、小刻みに震えている。歯軋りをしているのだ。
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