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「アクセス開始――」
女は、指揮者のように杖を振った。焦げ茶色の残像は円形。杖の先端から、青い円状の魔方陣が展開される。
宙へ浮かんだ青の魔方陣は、回転しながら徐々に大きくなってゆく。幾何学模様、様々な線と図形で描かれたそれは、女の真上で静止した。
「解析完了――魔法術式展開≒≒≒【Program∵Interface】≒≒≒」
突如として、魔方陣は分散し始めた。青く彩られた数字や記号の数々が、竜巻のような螺旋状の弧を描きながら女の周りを覆い、眩い光を放つ。
同時に、女を中心に広がる数メートルの空間が曲がり始めた。陽炎をさらに揺らしたように、湾曲する情景。
それが意味するのは、次元と次元が開通したときに生じる空間の誤差、不安定。
たった今、二つの世界を隔てる境界線が曖昧になった。
世界と世界が繋がる――
「――RE:call(世界よ、呼応せよ)」
――刹那、
女の声に応答するかのように魔方陣から発された強烈な光が、辺りを埋め尽くす。
男は思わず目を塞ぎ、魔方陣に包まれた女へ叫んだ。
「――必ず、助ける!」
――再会を、誓って。
眩い閃光が、辺りを埋めつくしたのも数秒。光が漸く収まる。
この場に残ったのは、虚無と別れの余韻のみ。
恐る恐る目を開いた男の視界に、女の姿はなかった。
決意の叫びが、果たして女の耳まで届いたかどうかは定かではない。
だが、そんなことは男にとって、どちらでもいいことだった。
かけがえのない存在を失ったばかりにも関わらず、男は絶望したような素振り一つ見せない。
不意に、男は踵を返した。真白の軌跡を残しながらはためいたローブ。
新たな決意を胸に秘めた男は、その場を後にした。
「オレが行くまで、どうか無事で居ろよ――クシャナ」
その瞳に、先刻とは異なった炎を灯して――
小さくなっていく男の背中を追うように、一陣の風が吹いた。
誰かを慰めるような、弱く、温い風。
その風は、誰も居なくなった別れの場を慰めるように、草木を揺らした。
魔法のある世界。
魔法のない世界。
――その両方で、運命の歯車は廻り始めた。
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