第一章 魔女と龍脈と邂逅と。

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         1/ 「――思ったより、歪(ひず)みが進んでるようね」  某日、某時刻、神居山の中腹。  誰も訪れないはずのその場所に、異界の者は現れた――  ※  神居山の麓にある小さな高台。廻魔市を一望できるこの場所に来るのは、もはや日課となっていた。 「あと、ちょっと……!」  荒くなった息と、熱を帯びた身体。坂道の急さに比例したペダルの重さは容赦なく足へと襲いかかる。  錆びたチェーンとギアは悲鳴のように軋み、今にも壊れてしまいそうな音をたてていた。  坂道にもかかわらずギアは最大。もう少し小さくすれば楽なのだろうけど、それはしない。  なぜなら、こうやった方がのぼり終えたときに味わえる達成感が大きいから。  目的地(ゴール)まであと数メートル。この微妙な距離がもっともつらいのだが、こればかりはなんど体験しようとも慣れようがなかった。  そして、とうとうふくらはぎまでもが悲鳴をあげはじめたのをきっかけに、残りすくない力を振り絞る。あふれる汗なんてお構いなしに、一気に坂道を駆け上がった。  ここまでくれば最後は気力だ。  痛みで限界を訴えてくるふくらはぎに鞭をうち、もういちどだけペダルをふみしめた。  ――瞬間、オレを迎えてくれたのは雄大な景色と爽やかな風。  この高台の一番上からしか見ることのできない景色は、今日も相変わらず綺麗だった。  自転車から降りてゆっくりと景色を見ると、汗まみれの体躯を達成感が包む。 「……やっぱりここは最高だな」  視界いっぱいに広がる真っ青な空。  地平線の先に浮かんだ入道雲。  環境音には蝉時雨。  雄大な真夏の大自然を全身に浴びると、自分という存在のちっぽけさを実感する。 「あっちぃなー」  思いっきりあお向けにになると、そこは青天白日。  燦々と降りそそぐ陽射しに目を細めると、そよ風が髪を撫であげ、どこからか飛んできた鳥が鳴き声をあげた。  強張っていたふくらはぎが、ゆっくりとほぐれてゆく。 「すぅ~……」  吸ってー。 「はぁ~……」  はいてー。深呼吸。  まるで、自然と一体になったような感覚。体の力が一気にぬける。このまま眠ってしまいそうだ。  弛緩しきった体に残ったのは疲労感と爽快感。  そのなんとも言えない心地よさに魅せられて、こうして毎日ここに来ているわけだ。
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