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いつこんな絵を描いた? 気がついたら、白紙だったはずの紙に黒と赤のペンで殴り書きのような絵が描かれていた。 蜥蜴の絵。真っ黒に塗り潰された画面に、赤い蜥蜴の輪郭がクッキリと描かれている。木の机に形が残る程の筆圧で描いたようなのだが、何故か記憶がなかった。 「寝ぼけて描いたにしては筆圧が……誰かが描いたとしたら俺に気づかれずにどうやって……」 ぶつぶつと自問自答を口の中で呟きながら、そう言えば自分が図書館にいたことを思い出し、男は呟くのを止めた。 しかし何しに来たんだったか、ぼんやりとした記憶を辿ってみたが、頭はぼんやりとしたままでいまいち上手く働いてくれない。 仕方なく目の前の机に目を向けて見ると、紙の上方に広げられた分厚い本が目に入った。広げられているのは『爬虫類図鑑』の蜥蜴のページだった。 しかし、起きる前、何故この図鑑を手に取りこのページを開いたのかも記憶にはなかった。しかも紙に描かれたこの赤い蜥蜴は、開かれたページに描かれているどの蜥蜴にも似ていないようだった。稚拙な絵だから当たり前と言えばそうなのだが、直感とでも言うべきか、どれとも違う、と何故か核心している自分がいた。 ふと、周りが気になってキョロキョロと見回してみると、机と椅子、本棚がずらりと無機質に佇んでいるのだけが見えた。誰かいる気配は、 「……?」 なかった、はずだった。後ろで、物音がするまでは。 ずっ……ず……っ。 引きずる音。―何故か何かを引きずり出すイメージを連想させる―その音は、右から男の後ろを通り過ぎ、左側へと動いていった、 はずだった。
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