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ずっずっ。ずる、ずる、り……ずるず……ぐちゃ。 またあの音が近づいてくる。気づいた途端、男はとうとう振り向いていた。はじめて、その音に恐怖を抱いたのだ。いや正確には、そう自分に言い聞かせ、振り向いてその音の原因を知るのが怖かったのだ。 振り向いた先、そこには、 「……!!」 何もいなかった。一応確認の為、少し戻って右や左も見てみたが、やはり何もいる気配はなかった。男は思わずほっと胸を撫で下ろし、安心したようにもう一度絵に向き直った。 前には思わなかったが、今見るとその絵の真っ赤な輪郭だけの蜥蜴は、黒い世界でもがいているように見えた。 漠然と、この黒い世界は狭苦しい場所で、じめじめした洞窟のような嫌な臭いがしそうだな、と思った。 ずっ……ずずず、ぞりるぞる……ずりっ。 しかしそこまで考えて、男は目的を思い出した。そう、トイレだトイレ。すると、丁度目を向けた先に男子用のトイレのマークを見つけた。またかなり距離があるが、仕方ない。男は先程より少し早歩きで、廊下を歩きはじめた。そう、そうやって自らを偽ってまで、男は音から逃げていた。
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