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ぞるぞるぐちゃぐちゃぐぢっ、ぞりぞっグチャ、ぐぢぞりずるるるずるっ。ぞるずるずりりっぞっずるるずるぐちゃくぢグチャグチャぐ――。 刹那、音がぴたりと止んだ。 「……? 何……?」 と同時、恐ろしいほどの吐き気が男を襲った。 「ぐっ……げぼっごぼ、ごほっごボッ……ゲェッ!!」 何か食べた記憶はない。しかし、胃からはナニカが込み上げてくる。酸特有のすっぱみと、鼻をつく胃液の臭い。しかしそれよりも、もっと酷く立ち込める臭いと味があった。 「ごぼ、ぼっゴふッ……!!」 吐き出したソレは真っ赤で、立ち込める臭いは血独特の鉄分、味も鉄の味がした。しかしその事態に恐怖する余裕もなく、吐き気は止まることはなかった。 そして、一段と大きな波が込み上げてきたと同時、大きな塊が喉を、そして口を通り外へ飛び出した。 「ゴボォ……おぇっ……ごぼっ」 血だまりの中、それはビクビクとうごめいていた。小さな手足に尻尾。体中にはえた鱗が、血に濡れていた。そうそれは、男が愛した、蜥蜴だった。 「ひっ……ヒィ……ヒィやぁああ!!」 怯えたように男は後ずさりしたが、本棚に背をぶつけ逃げ場を失ってしまう。 そしてふと、男は目の端に入った絵を見上げた。先程と同じはずの絵。しかし明らかに先程とは違っていた。 「なん、で」 その絵にいたはずの赤い蜥蜴。黒い世界で足掻いていた蜥蜴。その蜥蜴が、絵から忽然とその姿を消していたのだ。 そうか。男は気付く。この蜥蜴の絵は、自分の腹の中にいる絵だったんだ。今蜥蜴はそとに出てしまったからこの絵からも蜥蜴はいなくなったんだ。 そう、そう考えたら納得がいく、簡単なことじゃないか。
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