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――どぼん。微睡みの中にあった者ならたちまち飛び起きるほどの、冷たい感覚に包まれた。しかし、鮮明になる筈だった視界はぼんやりと滲み、ぼこぼこ、ぶくぶくと、鼻から、口から、空気の球が次々と上を目指して昇ってゆく。不幸な事に短い旅の終着点は、澄んだ青色の水の中だった。
「ぷはぁっ! げほごほ、ごほっ!」
激しく咳き込み、気管に入った水を吐き出しながらバシャバシャと大げさな程に音を立てて水を掻き分け、ようやくの思いで地面に手が届く感触。ぐっ、と力を振り絞って水から這い上がると、水を吸ったブレザー、重力、倦怠感に引っ張られて、短く茂った柔らかな草の上で仰向けに倒れ込んだ。
昨晩に雨が降ったのだろうか、少し湿った、土や草の匂い。さわさわと、囁くように葉を揺らし擦る木々。その間から溢れる柔らかな陽の光。わずかな隙間から見える空には雲一つ無い。
じわじわと実感が湧いてくる。今まで当たり前に在ったものは綺麗さっぱり無くなり、自分でない自分は新たな土地へ、異世界へやってきたのだ!!
本当に生きて、生きてここに居る……しみじみと生を感じつつ、通過儀礼のような思いで手のひらを見つめる。が、どういう訳か見慣れている筈の自分の手に違和感を覚える。 慣れているなら、違和感なんて覚える筈がないのに……。
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