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――そう、そうだ。そういう事なんだ。見慣れていないんだ、この手に。だって、これが自分の知っている手なら、こんなにも丸く細くなくて、もっと骨張ってたのだから。ああそれと、日に当てたところで眩しくもなんともなかった。今はもう、もしかして光ってるんじゃないかってくらいだ。
今まで感じた事のない妙な焦りで体を起こすと、視界の端にちらと、鮮やかなオレンジ色の何かが。視線を向ければ、周りの落ち着いた色合いから浮いた強烈な色の正体はすぐに分かった。
……髪の毛の、束だ。それも、恐らく女性の。それは非常に長く、水か何かに濡れて艶やかに光っている。果たしてその元は、と辿ってゆくと、それはどんどんこちらへ近付いてゆき……。
「うわ……え……?」
髪の毛が自分の後ろまで行っている事に驚いて出した声に驚いた。自分の口から聞いた覚えのない、しかし聞き心地の良い可愛らしい声が漏れたのだ。
前はもっと低くて、声の質だって違ったのに……と、そこまで考えて、短い旅が始まる寸前に見た、とある男のニヤついた表情が脳裏に浮かび、とうとう各所の違いに気が付いてしまった。なかった物が、申し訳程度だがあって、あったものが確かになくて……。
「な、ななななななぁ……!」
なんてこった……男から女に、性別が逆になってるではないか……!!
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