一人で出来る事

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働かざる者食うべからず。現代においては、労働の対価として金銭を得られるから、それで食料を購入しろという事だ。しかし、ひもじい思いをする者が必ずしも怠け者だとは限らないではないか。 「働きたいって言われてもねぇ……あんた、その様子じゃ家もないんだろう?」 「は、はい……」 「店員が……こうはっきり言うのもなんだけど、小汚くてどうすんだい。悪いけど他をあたってちょうだいね」 「はい……すいませんで」 バタン。遠慮のない音が耳に反響して、肩を落とす。 「……した」 重い足で表通りから外れ、細く暗い路地に入り込んだ辺りで、ぐぎゅるる、と腹の虫が主張を再開した。今回は美味しそうなパンがたくさん並ぶパン屋へ行ってみたのだが、案の定、すぐに断られてしまった。それどころか食べ物の匂いで空腹感が加速している。 ノエルの元を発ってからたった一日しか過ぎていないというのに、だ。既に食料はなく、食料を買うお金もなく、こうして朝から就職活動に勤しむも、失敗に終わる。運が良いと自信満々に言い切った自分を酷く罵ってやりたい気分。早くも心が折れそうだ。 初日に観光がてら~なんてぬるい考えで街を歩かなければ良かったのかもしれない。そうすれば今頃……仕事が見つかるまでは行かなくても、小汚いなんて言われる事はなかっただろうに。 なぜなら歩きに歩いたせいで、冒険心をくすぐられるような、道と言えなくもない道を見付ける事はなく、そこで間抜けに転ぶ事もなかったのだから。 「はぁ……にしても、普通の人ばっかだったなぁ」 昨日一日歩いて気付いたのは、この街には若い人が多く、その大半が普通の――角や翼、動物の耳や尻尾のない――人間ばかりだということだ。もっとこう、どどーんとインパクトのある見た目の人は居ないものか。 とは言っても、流石は異世界。髪や眼の色は様々で、段々と目がチカチカしてくる。他の人から見た自分もそんな感じなんだろうと思うと、少し複雑な気分だ。ノエルの黒髪が羨ましい。
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