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――いくらか時間が経ち、落ち着いた、というよりはいても立ってもいられなくなり、現在地は当然ながら方角すら分からないままの森林探索が始まっていた。歩き出す前に水を覗き込んで自身の姿でも確認しておくんだったという後悔は、ついさっきしたばかり。今は専(もっぱ)ら、この森の出口を探す事に情熱を傾けていた。
しかし、右を見ても左を見ても、苔、岩、樹木ばかり。明るい場所が遠くに見える度に期待を抱き、手足を泥に塗(まみ)れさせながらも向かえば、そこはただの森の広場だったり。もしや行く方向を間違えたのでは、と疑問が生じ始めた時にはすでに遅かった。ひたすら真っ直ぐに進んで来た訳ではなかったので、もはや初期地である青い池は何処なのやら……といった状態。
「はぁー……」
気が滅入ってきて思わず吐いた溜め息まで可愛らしいので、更に気が滅入る。その内、疲れで頭がおかしくなって歌い出さないよう口をつぐんで、ひたすら歩き、歩き、少しだけ足を揉んだりと休憩をして、また歩く。
でこぼこした地形と不安定な足元、何より裸足のせいでとっくに足は痛いし、所々で地面から突き出た太い木の根を何度も乗り越えているために体力の消耗が早く、息も切れ始めてきている。しかし、陽が落ちて暗くなる前にこの森を出たい。その思いが身体を動かす原動力になって、長らく休む事だけはしなかった。
ここまで見かけた生き物は、リスや小さな鳥たちのような害のない生き物たちだけでも、夜、月明かりが僅かばかりしか差し込まない森、それだけでゾッとしてしまう。なにせ、サバイバルはおろか野宿の経験もない、極めてもやしっ子らしい人生を送っていたのだから。火の起こし方なんて、本当に小さな頃に体験学習として経験しただけだ。
……考えれば考える程、異世界一日目にしてピンチである。
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