墜落と邂逅

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もしも猫のように素早く、軽やかに移動出来たなら、どれだけ楽なんだろうなぁ、とその時、ぽひゅん、という気の抜ける音と同時に、視界が白く染まった。何も見えないながらも何事かとキョロキョロしていると、急速に霧が晴れるように視界が戻って、目の前には巨大化を遂げた森が広がっていた。 ――いや、違う。これは森が広がったんじゃなく、自分が小さくなったんだ。分かりやすい判断材料は傍らに転がっていた。今まで身に纏っていた、紺色と土色が半々くらいになってしまっていたブレザーだ。最初は綺麗だったろうに、今やその姿は思い出の中……。 と、やや感傷に浸っていると、またしても視界の端にオレンジ色のものが。さっきもこんな事があったというのに、今度は一体何だ。半ばうんざりしながら見てみれば、それは間違えようもなく何かの尻尾であった。 柔らかそうな毛並みのそれは上へ下へと揺れる。上へ下へ、上へ下へ……何度かその動きを繰り返し、それが地面にへたりとくっ付くと、ようやく自分の体がどうなっているかが目に入った。しかし既に驚き疲れていたのか、混乱の一つさえすることなく、状況を飲み込んでしまった。 ああ、猫になったんだ。猫になれたら、って考えたから。髪と同じ、目を引く強烈なオレンジ色の毛並みはちょっとあれだけど、ちゃんと肉球も付いている。色はともかくとして、見れば見るほど猫に違いなかった。 試しに目の前の岩にぴょん、と飛び乗ってみる。さっきまであれだけ重かった体が、驚く程軽い。次は木の根の上へ。そしてまた岩の上へ。思い描いた通りの動きに気分が良くなり、まだ見ぬ出口を求め、前へ前へと走り出さずにはいられなかった。
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